遺留分とは何でしょうか

不平等な遺言があった時などに遺産の一部を取り戻すことができる制度です。

遺留分とは、亡くなった方が相続人に不平等な遺言を遺していたような場合であっても、取得できる取り分のことです。ただし、兄弟姉妹には、遺留分はありません。

例えば、亡くなった方に妻と子供がいた場合、遺言がなければ妻と子供が財産を半分ずつ相続することになります。ところが、遺言があって、子供にすべて相続させると書かれていた場合、何もしなければ妻は、夫の財産をまったく相続できません。それでは、妻は、期待が裏切られたと感じるだろうし、実際に老後が困ったことになってしまいます。

そこで法律は、このようなことがないように調整する制度として遺留分を定めています。

また、生きている間に財産を第三者に全部贈与してしまったような場合にも、遺留分として請求できる場合があるのです。

不動産を適正に評価することにより遺留分は増えます!

遺留分の基礎となる相続財産の半分近くは不動産です。

国税庁より発表された相続財産の内訳を見ると(平成26年事務年度)、土地41.5%、建物6.7%、現金・預金等33.0%、その他18.8%となっています。

したがって、不動産の評価いかんで大きく遺留分が違ってきますが、この評価額は一般取引市場で売り手も買い手も満足する適正な時価であるべきなのに、必ずしも適正な評価方法が行われているわけではありません。
それでは現実にどのような方法で評価されているのでしょうか。

不動産の評価は固定資産税評価や路線価が一般的だと勘違いされているのです。



なぜかと言えば、固定資産税評価額は、市町村から毎年固定資産税の請求が来るときに示される役所が定めた金額であり、また、路線価もやはり国が定めた評価で、相続税の申告の際に使う金額だからです。

よくある評価方式

一般的によく利用されている評価方法(固定資産税評価額や路線価)によると不動産は安く評価されてしまいます。正しい評価方法(時価)で評価を行えば、不動産の評価は高くなり、遺留分も多くなることになります。

それでは実際に多く使われている不動産の評価方法を見てみましょう。

1. 固定資産税評価額
2. 路線価
3. 地価公示価格
4. 地価調査標準価格
5. 不動産業者の無料査定書
6. 鑑定価格

1 固定資産税評価額
固定資産税評価額とは、固定資産税・都市計画税の課税のための評価額です。固定資産税評価額は一般に時価よりも安く、地価公示価格の7割程度と言われています。

2 路線価
路線価とは、国税局が相続税・贈与税算定のために道路ごとに価格を付設しているもので、相続税路線価のことです。この路線価についても時価より安く、地価公示価格の8割程度と言われています。

3 地価公示価格
公示価格は、国土交通省の「土地鑑定委員会」が、全国の都市計画区域内に標準地を設定し、毎年1月1日時点の土地の価格を公示しているものです。その趣旨は、土地の取引価格に一定の指標を与え、土地取引の目安とすること、また、公共事業用地の買収や補償金額を算定する際にも参考にされているものです。この地価公示価格は時価に近い額と言われています。

4 地価調査標準価格
地価調査標準価格は、都道府県知事が毎年7月1日時点の土地の価格を公表しているもので、価格の意義や、評価方法は公示価格と同様です。

5 不動産業者の無料査定書
不動産業者の無料査定は、あくまでも物件の売却依頼を受けるためのツールです。仲介に都合の良い価格だったり依頼者の考えを反映した査定額となる場合が多く、会社によって査定書の価格は大きく乖離することも多いものとなります。
不動産業者の無料査定書では裁判では通用しませんが、鑑定評価書があれば裁判でも十分戦えます。

6 鑑定価格
鑑定価格とは、不動産鑑定士が、「不動産の鑑定評価に関する法律」に基づき、合理的な市場で形成される正常な価格を的確に把握することを目的とするものです。国家資格者として、不動産鑑定士のみが唯一行える独占業務であり、詳細な調査と高度な要因分析を行って作成された不動産鑑定評価書は、不動産の客観的かつ適正な価値を証明するものとして有力な立証資料となります。
ですから、鑑定評価によって求める価格は基本的に正常価格、つまり適正な時価のことなのです。

鑑定評価によって遺留分はどのくらい増えるのか



過去の受託事例から、次の具体例を挙げてみましょう(要約してあります)。

[概略]

1 不動産を固定資産税評価額で評価した場合

・被相続人(亡くなった方)には、相続人が配偶者(甲さん)と子供が二人(乙さんと丙さん)
・被相続人は亡くなる6ヶ月前に、かねてから愛人関係にあったAさんに不動産を生前贈与していた
・相続財産は現金6,000万円、不動産7,000万円(固定資産税評価額)

遺留分基礎額
不動産(固定資産税評価額) 7,000万円
現金 6,000万円
合計 13,000万円

遺留分はいくらになるのか

相続人遺留分総額各遺留分率各遺留分額取得財産遺留分侵害額
13,000万円
× 1/2 =
6,500万円
1/2 3,250万円 3,000万円 250万円
1/4 1,625万円 1,500万円 125万円
1/4 1,625万円 1,500万円 125万円
合計 6,500万円 6,000万円 500万円

不動産を固定資産税の評価額で評価した場合、遺留分減殺請求額は全体で500万円となりました

2 不動産を鑑定評価した場合

遺留分基礎額
不動産(鑑定評価額) 10,000万円
現金 6,000万円
合計 16,000万円
相続人遺留分総額各遺留分率各遺留分額取得財産遺留分侵害額
16,000万円
× 1/2 =
8,000万円
1/2 4,000万円 3,000万円 1,000万円
1/4 2,000万円 1,500万円 500万円
1/4 2,000万円 1,500万円 500万円
合計 8,000万円 6,000万円 2,000万円

不動産を鑑定評価した場合、遺留分減殺請求額は全体で2,000万円となりました。
この例の場合、1,500万円も多く取り戻すことができたのです。

3その他のケース

収益物件について一般の投資家は、現在の収益性に着目して購入しますが、固定資産税評価額や相続税における評価では、家賃が50万円でも100万円でも全く同じ評価額になることがあります。
また、分譲マンションについても、固定資産税評価額や相続税の評価はマンション1棟の土地、建物価格を算出し、そこから専有面積割合等を考慮した評価が行われているのです。
このように、固定資産税評価額や路線価評価は簡便な評価方法であることから、不動産の適正な時価を反映できない不動産が実は多く存在しているのです。
これらの物件については、不動産鑑定評価により適正な時価を把握し、より多くの遺留分を確保することが可能なります。

不動産評価の時点


遺産分割,遺留分減殺請求,特別受益で不動産の時価評価はいつの時点の時価評価となるのでしょうか。
遺産分割の場合遺産分割時(直近)の時価,遺留分減殺請求の場合は相続開始時(故人がお亡くなりになった時点)の時価,特別受益の場合は相続開始時(故人がお亡くなりになった時点)の時価と考えるのが裁判所の通常の見解です。

1 合意がある場合
不動産の価格は動きがあるので、売却する時期によって評価額が変わってきます。けれど,相続人間で合意をすれば,いずれの金額の評価としても問題はありません。
 
2 合意できない場合
この場合は,評価の基準時は一律ではありません。概ね次の通りとなっています。

遺産分割の場合 遺産分割時の時価(直近の時価となります。)
遺留分減殺請求の場合 相続開始時の時価(故人がお亡くなりになった時点の時価となります。)
特別受益の場合 相続開始時の時価(故人がお亡くなりになった時点の時価となります。)

遺留分を取り戻すには


遺留分を取り戻す流れは、概ね次のようになっています。

1.遺留分を取り戻す権利があること

遺留分の請求をする場合には、まず、法律的に相続人であることが前提となります。

そして相続人のうち、遺留分の権利があるのは、配偶者、子、親だけです。兄弟姉妹には遺留分の権利がありません。

2.遺留分減殺請求をすること

遺留分は、黙っていてもらえる権利ではありません。遺産をもらいすぎの人に対して、「私には遺留分があるので、遺産をもらいすぎの人から遺留分を返してもらう意思があります」と通知することが必要です。できれば、配達証明付内容証明郵便が良いでしょう。

3.遺留分減殺請求の期限

遺留分の権利は、自分の遺留分が侵害されていると知ってから1年で時効となり消えてしまいます。
また、遺留分が侵害されていることを知らなかった場合や、そもそも、亡くなったことを知らなかった場合でも、命日から10年で遺留分の権利はなくなります。

自分の遺留分が侵害されていることを知るタイミングはほとんどの場合、遺言の存在を知った時です。しかし、裁判になった場合、いつ遺言の存在を知ったか、というのは証明することが難しいので、亡くなった方の命日から1年以内に通知をしましょう。